ラムサールネットワーク日本の共同代表のおひとり、日本の雁を保護する会会長の呉地正行氏に「命を育む田んぼ」と題して講演をしていただく。
2009年12月12日・徳島市文化センターにて
■はじめに
2008年11月、韓国で開催されたラムサール条約のCOP10(第10回目の締約国会議)では、韓国と日本のNGOが働きけ、日本の農林水産省の支援のもと、アジア地域の水田は生物多様性を活かした持続可能性の高い食糧生産の仕組みであることということが、「水田決議」にまとめられ、アピールされた。
ラムサール条約はラムサール湿地とよばれる特定の水域だけの範囲であったが、2010年10月、日本が議長国を務め、名古屋で開催される生物多様性条約のCOP10(第10回目の締約国会議)の中では、アメリカ、北朝鮮を除く、地球上のほぼすべての国と世界中のNGOが集まり、今後の地球の運営の仕方が決められることになる。
このサミットの中で、ラムサール条約の「水田決議」を道具として、人口がどんどん増大し、人間活動による環境破壊の激しいアジア地域における。これ以上、地球環境を劣化させずに、人間生活の豊かさを守るための自然の恵みの持続可能な利用方法として、水田の生物多様性を高め、食糧生産と環境保全を両立するというモデルが提案される。
今後、アジア地域がEUのようにひとつの共同体になっていくとしたら、さまざまな考えの国がまとまる、その底辺を支えるものは、共通の気候であるアジアモンスーン気候、その自然環境を活かした食糧生産の仕組みである水田稲作になるだろう。ECからEUへヨーロッパが生まれ変わるための話し合いもそのほとんどが農業と、その農業が共生する自然環境をどうするかという話し合いであった。
地球をこれからも持続可能な生存空間とするために、アジア地域の人口爆発に対応する食糧生産の方法と自然利用の方法を考えなければならない。そのひとつの答えが水田の生物多様性を活かした食糧生産の仕組みである。水田で米だけではなく、魚も取れるし、水生植物もとれる。現在もカンボジアやラオスなどでは水田を高度に利用する複合生産の仕組みが出来ている。これを食糧不足を防ぎ、自然を壊すことなく、人口を維持する理想の農業生産の仕組みとして評価し、普及していかなければならないだろう。
以下、講演のメモ録

■農法としての「ふゆみずたんぼ」

ガンはどのように田んぼを利用しているのか?エサを獲るのは乾田で、湛水田は休息とねぐらとして利用している。

「ふゆみずたんぼ」にすることで、クモ、カエル、イトミミズが増えて、生態系が豊かになり、冬だけでなく夏もサギなどがエサ場として利用できるようになる。
アマガエルはイネミズゾウムシ、イネトツムシ、ツマグロヨコバイなどの害虫をハエ、ハチ、ガガンボよりもたくさん食べている。つまり益虫。またクモが増えるとウンカの害から守られる。
蕪栗沼の調査から、ふゆみずたんぼを行ったところと、夏にサギが群れているところには共通していることがわかった。3.7倍~4.4倍サギの密度が高まっている。



サギが何を食べているのかを調べたところ、ダイサギ、チュウサギ、アオサギもドジョウを食べていることが多かった。
ドジョウはイトミミズを捕食してる。ふゆみずたんぼでイトミミズが増えて、結果、ドジョウも増えたと考えられる。ふゆみずたんぼを行うことで生きものが増えた。イトミミズはふゆみすたんぼを行うことで5倍になっていた。田んぼと用水路をつなぐ魚道をつけると、利用している魚は圧倒的にドジョウが多かった。
「ふゆみずたんぼ」の効果については、3つの側面がある。①水辺生物の生息環境の回復。②新しい農法。③農業と環境の共生。
①水辺生物の生息環境の回復。
微生物から水鳥まで生物多様性の向上
ふゆみずたんぼのネットワークでガン類などの渡り経路の復元。(ガン類は、今は東北までしか南下しないが、かつては九州まで南下していた。)

②新しい農法。
抑草効果・益虫が増えて害虫抑制効果・水鳥やイトミミズ、微生物の糞による肥料効果・稲ワラの分解・生物多様性総合管理のモデル(IBM)
③農業と環境の共生。
農業の持続可能性を高める。農業生産による環境負荷の低減。
農業生産とガンなど水鳥との対立する関係から共生への道づくり。
■田んぼは自然と暮らしを結ぶ
マイナスを減らし、プラスを生み出す。食害補償条例1999年12月~・ふゆみずたんぼ1998年~、付加価値のあるお米を生み出す。ガンの生息地も守られる。より積極的にガン
を利用した農業があるのではないか?
2005年11月、ウガンダで開催された第9回ラムサール条約締約国会議で蕪栗沼と周辺水田が新たなラムサール条約湿地となる。
ラムサール条約湿地は湿原、湖沼、河川、干潟だけではなく、マングルーブ林、サンゴ礁、藻場、そして地下水系やカルスト、人工湿地も含まれる。
ラムサール条約湿地になると①保全・再生。②賢明な利用。③交流と学習の3つのテーマに取り組むことになる。
蕪栗沼と周辺水田の場合は、地元関係者の合意に基づき、アジアを代表する水田を含む初めてのラムサール条約湿地。ラムサールは環境を活かした水田農業にとって役立つ道
具となるという新しい考え方。ラムサール条約湿地としての水田の機能をさらに活かした地域づくりの模索→水田決議へ発展。
ラムサール条約湿地内の環境配慮水田区画計画と生物多様性を活かした有機農法(ふゆみずたんぼ農法)の実践に配慮した圃場整備工法の検討。40ヘクタール。
ふゆみすたんぼ米=ラムサールブランド米
2004年以降、20ヘクタールを集団作付け、生きものの力を活かしたお米作り。

生きものの生息環境の創造と、生きものと共存をめざす農業者への経済的な恩恵の創出。田尻町(現大崎市)が町独自の環境直接支払い制度で取り組みの立ち上げを支援した。
成果として、多くの水鳥でにぎわう水田が、農業に恩恵をもたらすことを実証。
今後の課題として、面的な広がりの推進。地域内でも、全国レベルでもネットワーク化し、水鳥の渡り経路の復元をめざしたい。
■田んぼは湿地の賢明な利用の形
水田決議の画期的なところ
①水田という特定の農地に注目した初めての決議
②水田を「農業湿地」と捉え、その湿地機能を活かした管理を行えば農業生物多様性が高まり、持続可能な水田農業が実現できることを示唆。
③アジアを代表する湿地である水田の生物多様性を世界に発信。
④農林水産省が、初めて会議に参加し、決議の審議に関わった。
⑤水田決議が、生物多様性条約会議(2010年、名古屋)とラムサール条約をつなぐ架け橋に。
⑥日本と韓国のNGOの提案、支援を日韓両政府が受け止め、水田決議X.31にまとめ、採択さえた。
⑦自然湿地に関係が注がれていたラムサールの中で、人間との関わりを持ち、賢明な利用が強く求めらえている人工湿地に注目した初めての事例。
⑧アジア諸国などで食糧増産のために行われようとしている、伝統的な持続可能な農法から、歯止めをかける道具として、時節を得ている。
国内のラムサール条約湿地で周辺に水田があるのは、37ヵ所中14ヵ所。
ラムサール条約湿地内に稲が生息している湿地は世界に75ヵ所ある。条約湿地内ではなく、その周辺に稲が生息している場所を含めると89ヶ所になる。
■水田を核とした生物多様性アジアモデル
水田を核とした生物多様性アジアモデルを生物多様性条約COP10名古屋で提案する。
水田生態系の政策的認識。水田は生物多様性の宝庫である。エコアジア2008年の議長総括で水田生態系に言及する。
①総合的アプローチの重要性・ラムサール水田決議に期待。
②水田はアジアモデルの重要な構成要素。
③SATOYAMAイニシアティブの一部。
ラムサール条約と生物多様性条約の共通点・違点。
共通点:豊かな自然(生態系)をめざす。
相違点:ラムサールは特定湿地を対象に、生物多様性条約は地域にこだわらない。
農業湿地としての水田の特性を生かした農業にラムサール条約と生物多様性条約を活かす方法を考える。
世界のお米の生産の9割はアジア地域。理想の水田の姿は、牛と鳥と魚と昆虫と人と稲とさまざまな水辺植物が共存する姿。水田は魚や水辺植物というお米以外の食糧も生産し
ている。

カンボジアのカンポントム県で、利用されている田んぼの生きもの。魚70種、爬虫類8種、両生類2種、甲殻類6種、軟体動物1種、昆虫類2種、水生植物13種。

水田は氾濫原の生態系を保全できる。
水田は水辺の多様なエコトーンを形成できる。
エコトーンは移行帯または推移帯といわれる。水の深さ、土の水分状態が少しづつ変化するため、さまざまな植物や生物が生息できる。

自然の多様性は、そこから獲れる食材の食べ方や保存方法のの多様性も生み出している。そして魚を獲る方法の多様性など、文化の多様性ももたらしている。
ラオスの家庭で消費される動物質の食材の約2/3は田んぼで収穫している。田んぼはお米の生産だけの場ではなく、複合生産の場なのである。魚類の半分。重要な食料である

両性類については、その9割を田んぼで採取している。日々の食材の供給源になっている。
水田の生物多様性を活かしたアジアモデルづくりを蕪栗沼・伊豆沼・化女沼で行っている。ガンが生息できる環境と農業生産の調和をめざしている。




琵琶湖のニゴロブナは郷土食の鮒ずしにもなる食材。ニゴロブナは田んぼに登ってきて、産卵し、稚魚は田んぼである程度、大きくなって、湖に戻っていく。水田を営み、水
田に住む魚を食べる文化は日本にもあり、アジア諸国と共通している。
魚道をつけるのでなく、堰板を連続的に設置して、階段状に水位をあげて、用水の水を田んぼへあふれさせる。設置が簡単で、住民参加でつくられて、設置された。
①世界の食糧戦略として水田の多様性に着目。
②持続可能な複合生産の場。
③今後予想される食糧不足対策の切り札。
工業化された農業では持続的な農業生産は不可能。水田の複合生産の力の再評価。
生物多様性の向上=環境問題=食糧問題=命の生存の問題。

田んぼの原風景は「田んぼを食べる」
水田最強の雑草=コナギ
日本では雑草だが、東南アジアではおいしい野菜
コナギは野菜よりも栄養価が高い。
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